はじめに

食物アレルギーとは、アレルゲンを摂取した際に、それを異物として認識して、自分の身体を防御するために過剰な反応を引き起こすことを指します。 近年、食物アレルギーを引き起こす人が増加しており、原材料の適切な表示とともにアレルゲン混入を防ぐための工程管理が重要になっています。

 

アレルゲン管理におけるふき取り検査

製造工程のふき取り検査では、以下の課題から迅速性と簡便さが重要です。

  • 迅速に結果が出ない場合、再洗浄など対策をすぐに取れない
  • 使用方法が簡便ではなく担当者が現場レベルで実施できない場合は、工程管理として利用するのが難しい

食品中に含まれるアレルゲンの検査方法は、消費者庁からスクリーニング検査(ELISA法)、確認検査(ウエスタンブロット法、PCR法)が指定されていますが、上記課題の観点から、日常的に実施することが難しい場合があります。このため、アレルゲンの洗浄工程管理には各種ふき取り検査が利用されています。 多くの食品企業で利用されている各種ふき取り検査の特徴を表1にまとめました。  

表1 各ふき取り検査方法の特徴

A3法
メリット:迅速かつ簡便な作業で、数値化できる。ほとんどのアレルゲン食材でタンパク 質定性法より感度が高い。
デメリット:アレルゲンを特定できない。

ELISA
メリット:メリット:アレルゲンを特定し、数値化できる。  
デメリット:操作手順と測定時間が長く、迅速に結果をだせない。また、専門的な技術や装置が必要である。コストが高い。

イムノクロマト法
メリット:迅速かつ簡便に、アレルゲンを特定できる。
デメリット:コストが高く、数値化できない。対象となるアレルゲンによっては、イムノクロマト法が開発されていない

タンパク検出法
メリット:迅速かつ簡便な作業性
デメリット:感度が低い場合や、数値で管理できない。アレルゲンを特定できない。

 

A3法によるアレルゲン食材検出の有用性

ATPふき取り検査(A3法)は、アレルゲンを直接測定できるわけではありませんが、洗浄の評価を、迅速かつ簡便に数値化でき、コストの面で抗原抗体反応のキットよりも安価であるため、日常的なアレルゲン管理に用いられるケースが増えてきています。特に、ELISA法やイムノクロマト法で分析できない食肉、果物、魚などの食品については、ATPふき取り検査(A3法)で管理することが有効です。

 

特定28品目のA3法、ATP法、タンパク質定性法での測定値の比較

A3法※1、ATP法※2、タンパク質定性法(ふき取り検査用)、タンパク質定量法(Bradford法)での分析を実施した結果を示します。
 ※1:A3法(ATP+ADP+AMPの測定値)
 ※2:ATP法(ATPのみを測定)

【食材】
  • 特定原材料7品目(えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生)
  • 特定原材料に準ずる21品目(あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、アーモンド)
【実験材料】
  • サンプル調製 :市販されている各食品材料10 gを90 mlの蒸留水で希釈した。更に、 蒸留水で10倍ずつ段階希釈をしてサンプルを調製した。

 
図1.28品目の希釈サンプルの検出感度

このレーダーチャートの軸は10倍希釈系列で、一番内側の円が10倍希釈、外側の円が107倍希釈を示しています。
は、A3法で200 RLU、は、Bradford法で10μg / g、-は、ATP法で200 RLUを示す希釈度合い、また、は、タンパク質定性法で検出できる希釈度合いを示しています。外側ほど高感度であることを示しています。
A3法()は、ATP法(-)よりも外側にドットが分布し、またタンパク質定性法()と比べても、ゼラチン以外で外側にラインがあり、これらの方法より高感度であることが分かります。
また、タンパク質濃度が10μg/gは、A3法の測定手順において、100μlのサンプルを綿棒に添加しているので、1μgタンパク質/assayの検出レベルのラインを意味しています。緑のラインより外側、もしくは、重なっている場合は、1μgタンパク質以下/assayの検出レベルで管理できる可能性があります。
例えば、豚肉、鶏肉、牛肉は、10倍希釈の時にタンパク質濃度が10μg / gであり、その時にルシパック A3で200 RLUの値を示す濃度とほぼ同等です。洗浄管理で、10 cm×10 cm面を綿棒でふき取り200 RLUの値が出たとき、その面に1μgのタンパク質が存在するリスクがあると考えられます。 えびの場合は、104倍希釈の時にタンパク質濃度が10μg / gであり、ルシパックA3で200 RLUの値を示すのは、106倍希釈、タンパク質濃度が0.1 μg / gに相当します。すなわち、ふき取った綿棒に0.01μgのタンパク質が存在するリスクがあると考えられます。
甲殻類、大豆、ごま、そば、アーモンド、いか、あわび、まつたけ、果物などはA3法のプロットがより外側にあり、食肉、魚などは、1μg / assayの検出レベルと同等であることがわかる。ELISA法などの抗原・抗体でのアッセイキットのない食肉、魚、果物などは、特にA3法での洗浄管理が有用と考えられます。

 

かつおだしのタンパク質量とA3法の測定値の関係

鰹だしの希釈系列サンプルを作成して、タンパク質濃度とA3法の測定値を確認した結果を図2に示します。A3法における感度が非常に高く0.002μg (2 ng) / assayで約1,000 RLUの測定値が得られました。

 図2.鰹だしにおけるタンパク質量とルシパックA3での測定値(発光量)の関係

米国において、2004年に公布された食物アレルゲン表示消費者保護法 (FALPCA) には、食物アレルギーの90%を占める8大食品アレルゲン (The Big - 8:Milk, Eggs, Fish, Crustacean Shellfish, Peanuts, Soya, Wheat)が記載されています。そのうちFishは、ELISA法やイムノクロマト法などが使用できないため、交差汚染の予防コントロールとして、A3法での管理が考えられます。図2に示したように、鰹だしは、特に高感度なのでFishのアレルゲンコントロールとして、A3法が洗浄管理に使用されている事例があります。 

 

米国におけるアレルゲンコントロール

米国において、交差汚染防止のための日常的な洗浄管理 (SSOP) に、ELISA法とATP法、一般的なタンパク質テストの使用がアレルゲンコントロールとして紹介されています※3。アレルゲンコントロールにおいて、特異性、定量性で優れているELISA法などで、妥当性の確認や検証を行うことを基本として、日常の洗浄管理は、より簡便で効率的な検査法による運用が実用的かつ効率的です。特に、ELISAなどの検査法がない場合は、それらの食品の残渣をより高感度で検出できる方法で検証をし、リスクの低減を図る必要があります。 A3法は、多くのアレルゲンを含む食材で、その残渣を高感度に検出できる点でATP法やタンパク質定性法(ふき取り)より優れています※4。今後、アレルゲンコントロールの有効なツールとして、その利用の拡大が期待されます。

※3 Baumert, J. L. et al : Food Safety Magazine (2013)
  https://www.foodsafetymagazine.com/magazine-archive1/junejuly-2013/best-practices-with-allergen-swabbing/.
※4 Saito, W. et al : J. Food Prot. 83, 1155-62 (2020)

出典元:月刊フードケミカル 2020年1月号を基に改稿

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