食品の安全性に対する関心は年々高まっていますが、なかでも食物アレルギーについては、食の安全性を語るうえで事業者にとって避けては通れない最重要課題の一つと言えます。

 食品アレルギー事故が発生する主な要因として、原材料表示の誤りのほか、食品製造段階における意図しないアレルゲンの混入が考えられます。その混入要因の多くは、機器類の洗浄不足による交差汚染です。そして食品工場の中でも、畜肉加工工場は牛肉、豚肉、鶏肉のように複数種のアレルゲンを扱っているケースが多く、特に交差汚染に注意すべき工場の一つと言えます。

 製造現場でのアレルゲン混入の防止策として、①アレルゲンごとに作業エリアや専用ラインを設ける、②同日に複数種のアレルゲンを扱わない、③製造ラインの洗浄を徹底する、などが挙げられます。ですが、製造工場の敷地面積や稼働状況によっては、①、②のような方策を講じることができないケースも多くあります。そのため、基本的事項である③のようなアレルゲンコントロールを念頭においた日々の洗浄管理を確実に実施することが、アレルゲン混入予防において最も重要であると言えます。

 ATPふき取り検査(A3法)では、基準値の例として500 RLUを挙げています。 そこで、畜肉を扱う製造現場においてATPふき取り検査(A3法)を取り入れ、間接的にアレルゲンコントロールを行うことを目的とした場合、洗浄の基準値として500 RLUが適切であるかの検討結果、ならびに実際の運用について紹介します。

 

考え方・鶏肉における豚肉タンパク質の汚染例

  1.  各種畜肉(鶏肉、豚肉、牛肉)から肉液を調製し、ATP量と総タンパク質量を測定しました。
  2. この結果から500 RLUの時に検出される総タンパク量を算出し、「異種畜肉タンパク汚染率※1」を求めました。

※1 異種畜肉タンパク汚染率:「器具洗浄後に残存した任意種の畜肉Aのタンパク質が、同一器具で製造した異種畜肉Bにどれくらいの濃度で混入し得るか」を計算した値

 豚肉加工後の器具の洗浄が不十分な場合、豚肉接触面に豚肉タンパク質が残存します。この状態で鶏肉を加工することにより、異種畜肉汚染が発生します(図1)。

図1. 鶏肉における豚肉タンパク汚染の例

汚染率の算出方法:鶏肉における豚肉タンパク質汚染率(ppm)=Sに残存した豚肉タンパク質(μg) / Sあたりの鶏肉量(g)

 一般に、畜肉アレルギー症状が現れる可能性があるアレルゲン濃度は数ppm以上と言われています。また、消費者庁は、アレルゲンタンパク質が数ppm未満の場合、表示免除可能としています※2。よって、「500 RLUの時の異種畜肉タンパク汚染率が1ppm未満となれば、基準値500 RLU以下はアレルゲンコントロールを目的とした洗浄管理の基準として適当である」と考えられます。

※2 食品表示法等, 別添 アレルゲンを含む食品に関する表示, 消費者庁:https://www.caa.go.jp/ 

各畜肉重量とATP測定値の解析

 各畜肉(鶏肉、豚肉、牛肉)から調製した肉液のATP量を測定し、各畜肉重量とATP量の関係性を調べました。

【実験材料】
  •  サンプル調製:タンパク質含有率が高い部位を選択した。市販の鶏肉(ムネ)、豚肉(肩ロース)、牛肉(モモ)の脂肪や皮を除去し、ミートチョッパーで3.2 mm径の挽肉にした。 各挽肉10 gを90 mlの精製水で希釈した。精製水で10倍ずつ段階希釈をして、サンプルを調製した。

図2.各種畜肉における畜肉重量とATP測定値(n=3)
(左:全データ、右:ATP=500 RLU前後のデータに限定)

 各畜肉すべて、畜肉重量とATP量が比例していることが分かりました(図2)。また、実際に適用する洗浄基準は500 RLUのため、測定値が500 RLU前後のデータに限定した相関性も確認したところ、比例関係であることを確認できました。これらから、ATP量から機器類に残存する畜肉相当重量が計算可能であると確認できました。

 

各畜肉の総タンパク質の定量

 先ほどと同じサンプルを用いて、総タンパク質量を定量しました(図3)。

図3.各種畜肉における総タンパク量 (n=3)

 

異種畜肉タンパク質汚染率の計算

 先ほど算出した「各畜肉重量とATP量の解析」、「各畜肉の総タンパク質の定量」の結果から、各畜肉のATP量と総タンパク質量の関係を求めました。

図4.各種畜肉におけるATP測定値と総タンパク量の関係

 上記の結果を用いて、まず500 RLUの時の畜肉タンパク質量を計算しました(ⅰ)。続いて、測定領域S(ふき取り面積に合わせて10cm×10cm=100cm2と設定)の面積あたりの畜肉重量(ⅱ)を計測しました。畜肉重量に用いた畜肉は、一般に加工食品で使用頻度が高い原料である冷凍ミンチ肉を選定しました。(ⅰ)と(ⅱ)を用いて、異種畜肉タンパク質汚染率を算出しました。

 

表2 「ATP = 500 RLU, S = 100 cm2」のときの異種畜肉タンパク汚染率 

 表2の通り、すべての畜肉種の組み合わせで、異種畜肉タンパク質汚染率は1ppmを大きく下回ることが分かりました。この結果より、基準値500 RLUは、畜肉アレルゲンコントロールを目的とした指標として適当であることが確認されました。

 

製造現場でのA3法の運用について

 弊社グループ会社のキッコーマン食品株式会社では、一部の畜肉原料サプライヤーにA3法を用いた洗浄管理導入を依頼し、運用を行っています。

管理方法
  1.   機器類の洗浄後、ATPふき取り検査(A3法)を実施する。
  2. 洗浄基準として、500 RLU以下※3とし、各機器類の洗浄合否を決定する。
  • 500 RLU以下:合格
  • 500 RLUより大きい:再洗浄後、再測定。500 RLU以下になるまで洗浄を繰り返す

 

測定頻度
  • 月1回以上

 

測定箇所
  • カットライン:まな板、各行程中のコンベアなど計6カ所
  • ミンチライン:まな板、各行程中のコンベア、ミンチ機内部などなど計12カ所

 この洗浄管理に加え、年に一度、畜肉原料に対してELISA法による肉種分析を実施しており、異種肉のコンタミネーションがないことを確認しています。

 このように、ATPふき取り検査(A3法)を用いた日常的な洗浄管理と、ELISA法による検証分析を組み合わせることにより、原料レベルからアレルゲン混入防止を徹底し、商品の安全性担保に努めています。

※3 記載の基準値の設定方法は一例ですので、各社の実情に合わせて検討することが望ましい。

出典元:月刊フードケミカル 2021年2月号「畜肉アレルゲン管理におけるATPふき取り検査(A3法)の活用」を基に改稿 

 

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