食物アレルゲン管理は世界共通の極めて重要な課題

 前回のコラムでは、コーデックス委員会が2020年11月の総会で採択したHACCPガイドラインの改訂版についてご紹介しました。この総会では、新しいガイドラインとして「食品事業者のための食品アレルゲン管理に関する規範」※1も採択されました。HACCPガイドラインの改訂版でも、アレルゲン管理の重要性については強調されています。食物アレルギーは、少量でも発症する可能性があること、発症が重篤な場合は人命に関わるほど重大なハザードであることから、HACCPプランを作成するハザード分析では、慎重に吟味しなければならない問題です。

 

 アレルゲン管理は、日本でも海外でも非常に重要視されている問題であり、コーデックス委員会が新しい規範を採択したことは、国際的な潮流を鑑みても、非常に重要な動きといえるでしょう。この新しい規範の特徴として、問題発生後の事後対応ではなく、未然予防のためのアプローチを促進することを目的とした内容となっています。特に強調されているのは、「アレルゲンを含む食品」から「アレルゲンを含まない食品」への意図しない移行、いわゆる交差接触(cross contact)※2の予防です。表示されていない食物アレルゲンの存在による回収事例は、日本でも海外でも回収事例の大部分を占めています。

※1 Codex Alimentarius, Code of practice on food allergen management for food business operators (CXC 80-2020) (adopted in 2020)
http://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/sh-proxy/en/?lnk=1&url=https%253A%252F%252Fworkspace.fao.org%252Fsites%252Fcodex%252FStandards%252FCXC%2B80-2020%252FCXC_080e.pdf

※2 コーデックス委員会の文書では、微生物の意図せぬ移行は交差汚染(cross contamination)、アレルゲンの意図せぬ移行は交差接触(cross contact)と用語を使い分けています。これは、食物アレルゲンは汚染物質ではなく、あくまでも食材の残留という考え方に基づく使い分けと考えられます。

 

食品回収の多くはアレルゲンが関係

 図1の食品産業センターの「食品事故情報告知ネット」の統計によると、2020年の食品関連の事故(回収事例)は総件数717件(前年比96.0%)で、そのうち過半数の419件が表示関連のミスによるものでした。さらに、表示ミス関連の内訳を見ると、「不適切な表示/アレルゲン」が234件で、全体の約3分の1を占めていました。この件数は、実は「微生物及び化学物質の混入」(108件)や「異物混入」(46件)、「品質不良」(42件)を上回っているのです。

 なお、2018年の食品衛生法の改正に伴い、2021年6月から食品のリコール情報の報告制度が運用されています。これは、食品事業者によるリコール情報を行政が確実に把握し、消費者への的確な情報提供につなげ、食品による健康被害の発生を防止することを目的としています。届出された情報は、国によって一元管理され、公表されることになります※3。

 情報を公表する際には、「国民へのわかりやすい情報発信」という観点から、対象食品の危害の重大さを基に「ClassⅠ~Ⅲ」の3段階に分類した上で、情報発信することになっています。ClassⅠは「喫食により健康被害が生じる可能性が高い食品」、ClassⅡは「喫食により健康被害が生じる可能性が否定できない、または可能性がほとんどない食品」、ClassⅢは「喫食により危害発生の可能性がない食品」とされています。食物アレルゲンの表示ミスは、健康被害につながる可能性がある、最悪の場合は人命に関わる場合もある、極めて重大な問題です。ClassⅠとして取り扱われる場合も多いでしょう。食品事業者がHACCP計画を構築する際に、食物アレルゲンは決して見落としてはならない重大なハザードの一つです。ちなみに、米国のFSMA(食品安全強化法)では、ハザード分析を実施して「食物アレルゲンが重大なハザードである」と判断された場合は、その管理手段(表示や交差接触の予防など)を「食物アレルゲン予防管理」と位置づけ、CCPのような厳格な管理計画を講じておかなければならない、というルールが設けられています

図1 2020年食品関連事故の内訳
出典元:一般財団法人食品産業センター「食品事故情報告知ネット」 https://kokuchi.shokusan.or.jp/

 

食物アレルゲン管理におけるATPふき取り検査の有用性

 食物アレルゲン管理で特に重視されるのは、①表示が必要なアレルゲンを原料・成分として使用する場合は、アレルゲンに関する情報を確実に入手し、適切な表示につなげること、②「アレルゲンを含む食品」から「アレルゲンを含まない食品」への意図しない移行が起こらないよう適切に管理すること、の2点に集約されます。  ②の「適切な管理」では、さまざまなソフト面での工夫が考えられます。例えば、空間的・時間的に作業エリアを区分する、ヒト・モノ・食品・空気・水などを介したアレルゲンの移行を予防する、洗浄不足によるアレルゲンの残留を予防する、などです。特に大切なのは洗浄であり、さらにいえば「適切に洗浄できたかどうか?」をチェックする、「見える化」するための手段を持つことです。ELISA法や、イムノクロマト法などの簡便・迅速な検査法を用いることで、自主検査も可能となります。最近は、ここでATPふき取り検査を適用する、という考え方も注目されています。  食物アレルゲンは、目視できないくらいの僅かな残留でも、深刻な食品事故を引き起こす場合もあります。例えば、泡立て器やミキサーの刃のような、洗浄しにくい調理器具に食品残渣が残留して、別の食品に食物アレルゲンが移行した事例も多数報告されています。洗浄後の洗い残し、衛生管理の“盲点”になりそうな箇所を、それぞれの現場で洗い出し、定期的な検査ポイントとしておくことが重要でしょう。  また、アレルゲンマップ(allergen mapping)という考え方も普及してきています(図2~4)。これは簡潔に言えば、「現場内でアレルゲンが懸念される箇所を表す図面」で、アレルゲンのコントロールが必要なエリアを特定する上で有用な手法の一つです。アレルゲン検査キットやATPふき取り検査の結果を図面に重ねることで、施設全体の衛生管理の状態が見える化できるかもしれません。

  • 図2 アレルゲンマップの例。

    どら焼きとクリームサンドクッキーで共有して いる装置や器具などで乳タンパク質が検出された

  • 図3 改善措置(どら焼きと洋菓子で製造区域を明確に分けた)の実施

    再度、アレルゲンマップを検証。計量台から乳タンパク 質を検出

  • 図4 洋菓子専用の計量台を設置

    どら焼きの製造区域か ら乳タンパク質は検出されなくなった

出典元:第104回ルミテスターセミナーの講演要旨
「食物アレルゲン管理のポイントとATP+AMP ふき取り検査の活用」東京都西多摩保健所 生活環境安全課事例集より

  

 前回ご紹介したように、コーデックス委員会の「食品衛生の一般原則」の改訂版では、「より注意を要するGHP」という考え方が導入されています。これは、ISO 22000・FSSC 22000のOPRPや、FSMA(米国食品安全強化法)の予防管理(preventive control)などの考え方と、相通ずる側面もあると考えることもできそうです。アレルゲンの交差接触が起きないよう、適切な洗浄を実施することは、ハザード分析の結果によっては「より注意を要するGHP」の考え方を適用する方が適切な場合があるかもしれません。適切な洗浄が維持できているかモニタリングするためには、ATPふき取り検査のような、現場担当者が実施できる簡便・迅速なチェック方法は非常に有効です。

 洗浄後の目視チェック、ATPふき取り検査、およびアレルゲン検査キットを効果的に組み合わせることで、より確実なアレルゲン管理の体制の構築・強化に取り組んでみませんか?

 

参考文書

 

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