一般衛生管理で、なぜ環境の清浄度管理が重要?  

 環境の洗浄不備がみつかったからといって、必ずしも食品事故の発生につながるわけではありません。しかし、過去の食品事故の事例を紐解くと、洗浄不備を原因とした微生物の交差汚染や、アレルゲンの移行が原因として特定された事例は存在します。

 

図1 食中毒予防の3原則「つけない・増やさない・やっつける」
出典元:厚生労働省リーフレット「あなたのお店は大丈夫? 衛生管理を『見える化』しませんか?」を基に改稿
http://saga-shokkyou.com/wp/wp-content/uploads/1e94402488a1ed8af5a249b9e37ebf72.pdf

 図1は厚生労働省が作成した飲食店における衛生管理のポイントをまとめたものです。食品衛生管理の基本として、「微生物制御の3原則」(つけない、増やさない、やっつける)という考え方が浸透していますが、この図を見ると、環境の衛生管理において微生物を「つけない」対策が非常に重要であることがわかります。 例えば、レディ・トゥ・イート食品を製造する施設では、微生物の交差汚染が起きないよう環境を清浄に保つことが非常に重要です。アレルゲンを含有する食品を製造する施設では、洗浄不備によってアレルゲンが別の食品に移行しない環境を清浄に保つことが非常に重要です。そのような箇所は、ハザード分析の結果、「重大な食品安全ハザードが存在する」と判断された場合、コーデックス委員会のHACCPガイドライン(改訂版)でいうところの「より注意を要するGHP(適正衛生規範、いわゆる一般衛生管理)」として考慮する必要があるかもしれません。

 

どう管理する!? 「より注意を要するGHP」や環境の清浄度

 その有効なソリューションの一つがATPふき取り検査です。改訂版のHACCPガイドラインでは、「付属文書1」の中で「GHPで適用されるコントロール手段の例」として「装置洗浄時のATP試験」を挙げています。ISO 22000を運用する施設では、ATPふき取り検査による清浄度確認をOPRP(オペレーションPRP)として活用している事例も多くあります。ATPふき取り検査は、微生物や食物アレルゲンを直接的に評価する手法ではありません。しかし、微生物の栄養源となる食品残渣や食物アレルゲンなど、「食品事故の原因となり得る物質」の残存をトータルで評価できる方法ともいえます。環境の清浄度が高まれば、製造する食品の消費期限や賞味期限の延長にもつながるかもしれません。安全な食品は、「衛生的な環境」で製造されます。環境清浄度の「見える化」の手法を持っておくことは大切です。

 

効果的に簡便・迅速検査法を活用しましょう!

 HACCPは、食品衛生法において構築・運用・維持管理することが制度化されていますが、一方で、基本は「自主管理」です。自分たちが製造・調理する食品の安全性を、自らの努力で保証する取り組みが重要です。

 そこで注目されているのが、「簡便・迅速な自主検査を効果的に取り入れる」という考え方です。簡便・迅速な検査キットとしては、例えば微生物そのものをターゲットとする簡便・迅速な培地もありますし、ATPふき取り検査やタンパクふき取り検査のような化学的な指標を用いた簡便・迅速な環境の清浄度のチェック方法もあります(表参照)。最近はスマートフォンで観察する顕微鏡(いわゆる携帯形微生物観察器)のようなツールや、PCR法などの遺伝子手法もあります。 こうした簡便・迅速な検査法は、ほとんどは公定法ではありません。検査の目的が、食品衛生法で定められた微生物規格への適合性を確認することである場合は、公定法の検査を実施しなければなりません。しかし、「原材料や最終製品、中間製品が、自社の微生物基準を守っているか?」「自社のHACCPが適切に機能しているか?(例えば殺菌工程が適切に機能しているか、など)」「製造環境は衛生的か?」などを確認するための検査は、必ずしも公定法にこだわる必要はありません。簡便・迅速な検査法であっても、十分に目的を果たせる場合も多いです。 

 

表 一般衛生管理とHACCPの比較(簡便・迅速な検査法の観点から)
項目

一般衛生管理(前提条件プログラム;PRP

HACCP

内容

・食品安全を間接的に扱う:環境管理
・複数の生産ライン、工場全体にわたる
・ハザード分析の結果、起こりにくく、起きた場合の結果が深刻ではないハザードを扱う
・管理の失敗があっても、食品安全上、重大な問題につながることは滅多にない

・食品安全を直接的に扱う:工程管理
・生産ラインごと(製品ごと)に計画作成
・重大なハザード(起こりやすく、起きた場合の結果が深刻なハザード)を扱う
・逸脱は食品安全の潜在的なハザードと考えなければならない
クリーニング、サニテーション 加熱調理
簡便・迅速な検査法の活用例

〇目視で清浄度のモニタリング
 →ATPふき取り検査やタンパク検査、微生物検査で検証

〇ATPふき取り検査やタンパク検査で清浄度のモニタリング
 →微生物検査で検証

〇SSOP(洗浄標準作業手順)を作成する際に、薬剤の洗浄・消毒の効果、手順の有効性を、ATPやタンパク、微生物検査で妥当性確認

〇工程管理のパラメータ(例えば加熱調理の温度と時間など)をモニタリング
 →工程管理が有効に機能していることを微生物検査で検証

〇HACCP計画を作成する(例えばCCPの加熱条件を設定する)ときに、その設定条件が正しいことを、微生物検査で妥当性確認

出典元:ATP・迅速検査研究会

 図2に示すように、日常的な環境の清浄度チェック(ATPふき取り検査やタンパクふき取り検査など)よりも指標菌検査の方が、指標菌検査よりも食中毒菌検査の方が、微生物や検査に関する知識や経験が必要になりますし、導入のコストも高くなります。検査の目的や予算を考慮して、日常的な環境の清浄度チェックを実施すべきなのか、簡便・迅速に環境指標菌の検査を実施すべきなのか、あるいは食中毒菌そのものの検査を導入する必要があるのかを、吟味することが大切です。

 

自主検査の位置づけ

図2 自主検査の位置づけ
出典元:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、川崎晋先生作成の図を一部改変

 

 HACCPを運用する多くの施設で、ATPふき取り検査は効果的に活用されています。環境の衛生管理の基本は「目視観察」です。目視できれいになっていない現場では、どのような検査を導入しても効果は得られないでしょう。検査の目的は「見えない汚れを『見える化』すること」です。そのように考えると、「普段は衛生状態を目視でモニタリングし、定期的にATPふき取り検査で検証する」、あるいは「普段は衛生状態をATPふき取り検査でモニタリングし、定期的に微生物検査で検証する」といった考え方があります。こうした検査の仕組みを効果的・効率的に運用することで、現場の衛生管理水準の向上や、スタッフの衛生意識の高揚などにつなげている現場は多いです(表参照)。 その際、「検査結果を活用する」という考え方も大切です。検査結果をもとに、HACCPや衛生管理の改善につなげることが大切です。「結果の活用の仕方」までを考慮することも、検査方法を選択する際の重要なポイントの一つです。

 

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