近年の食中毒の傾向 ~「環境の洗浄/清浄度の維持」の重要性が高まる~

画像の説明テキスト

 日本国内における食中毒発生に関しては、厚生労働省が平成8(1996)年から毎年、食中毒の発生件数や患者数に関する統計資料を公開しています※1。今回は1996年以降、およそ四半世紀の微生物による食中毒の発生動向についてご紹介します。微生物の検出精度や、食中毒調査の技術などが向上しているので、過去と現在を安易に比較することはできませんが、近年の食中毒発生状況を見てみると、以前と比べて「ヒトや環境からの二次汚染」による食中毒予防の重要性が高まっていることがわかります。
 2018年に公布された改正食品衛生法ではHACCP制度化が盛り込まれました。HACCP制度化は、すでに施行されていますが、工程管理(HACCP)だけでなく、HACCPの前提条件となる一般衛生管理、特に器具や装置などの二次汚染の予防や、ヒトの手指などを介した微生物の移行を防ぐことが極めて重要です。
 そのため、すでに多くの食品施設では、洗浄や手洗いが適切に実施されたかどうかを確認・検証するために、ATPふき取り検査や簡易培地を用いた微生物検査などが実施されています。特に、ATPふき取り検査は、現場で迅速に(サンプリング時間を含めても1分程度で)清浄度が数値化できることから、現場の衛生管理レベルの工場や、スタッフの衛生意識の高揚などの面で大きな効果を発揮しています。

 

※1 厚生労働省 食中毒統計資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

食中毒のピークは20年前、HACCPの普及と並行して食中毒は減少

 図1は昭和56(1981)年以降の食中毒発生状況です。食中毒発生のピークは平成10(1998)年で、事件数は3010件、患者数は4万6179人(死者9人を含む)と高水準でした。その後、HACCPの考え方の普及などが奏功して、徐々に食中毒は減少傾向を示しました(平成18(2006)年に患者数が急激に増えているのは、ノロウイルスの変異型の大流行が起きた影響です)。

食中毒の発生状況

図1 食中毒の発生状況※1

 しかし、近年は食中毒の減少傾向が横ばいになってきたことから、2018年6月に公布された改正食品衛生法においてHACCPの制度化が盛り込まれました。公布から2年後の2020年に施行され、1年間の猶予期間を経て、2021年から原則すべての食品事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組んでいます。
 我が国の食中毒発生がピークを迎えた1998年前後は、サルモネラと腸炎ビブリオが原因物質のツートップで、ノロウイルス(当時の分類名は「小型球形ウイルス」)が台頭してきた時代でした(図2、図3)。

食中毒の発生状況(事件数)

図2 平成8年~令和2年の食中毒の発生状況(事件数)※1

食中毒の発生状況(患者数)

図3 平成8年~令和2年の食中毒の発生状況(患者数)※1

 

行政・業界団体がHACCP推進、サルモネラと腸炎ビブリオの食中毒は顕著に減少

画像の説明テキスト

 サルモネラは鶏卵、腸炎ビブリオは水産物を原因食品とする食中毒が多発していました。腸炎ビブリオについては、平成13(2001)年に厚生労働省は成分規格や加工基準、保存基準を見直したことを契機に、食中毒は顕著に減少に向かいました。ピーク時の平成10(1998)年は839件(患者数1万2,316人)でしが、平成18(2005)年には100件を切り、令和元(2019)年には初めて0件となりました。ちなみに、腸炎ビブリオは昭和25(1950)年に大阪府で発生したシラス干しを原因とする集団食中毒の原因として、日本で発見された病原微生物です。発見から約70年を経て、遂に食中毒0件を実現できたのです(図4)。

腸炎ビブリオによる食中毒の発生状況
図4 腸炎ビブリオによる食中毒の発生状況※1

画像の説明テキスト

 サルモネラも同様です。ピーク時には平成11(1998)年に事件数825件、平成8(1995)年に患者数1万6576人という年もありましたが、その後は顕著な減少傾向を示しています。最近は、事件数は年間20~30件、患者数も平成30~令和2年は1000人を切っています(図5)。

サルモネラ属菌による食中毒の発生状況

図5 サルモネラ属菌による食中毒の発生状況※1

 この背景には、農林水産省と厚生労働省の主導で、養鶏場における生産段階から流通段階、消費段階も含めて、「農場から食卓まで」(いわゆる“from farm to table”)を一貫した衛生対策を推進したことなどが奏功しています。
 食品安全確保、HACCPの基本として、1997年に米国のクリントン大統領(当時)は「from farm to table」(農場から食卓まで)と表現しています。腸炎ビブリオとサルモネラについては、「農場(養鶏場や漁場)から食卓まで」における安全管理のポイントを明確化して、有効な施策を講じたことで、食中毒の低減に成功しました。国を挙げてHACCPの構築・運用に成功した事例と言えるでしょう。

 

ノロウイルス食中毒の台頭で、「環境の清浄度管理」が重要な時代に

 さて、図2~3からもわかるように、平成時代の最初のうちはサルモネラと腸炎ビブリオの食中毒が多く、これらは原材料の微生物汚染が主な原因でした。一方、平成時代の後半はカンピロバクターとノロウイルスが主原因となります。カンピロバクターは食肉(特に鶏肉)、ノロウイルスは二枚貝(特にカキ)など、原材料汚染と加熱不足が原因の事例も多いですが、二次汚染による事例も多く発生しています。つまり、平成時代の後半は、(HACCPだけでなく)一般衛生管理、特に「環境の衛生管理」が重要な時代に差し掛かってくるのです。
 前置きが長くなりましたが、今回は最近の食中毒発生の傾向について、「環境の衛生管理」「環境の洗浄不足」の観点で見ていきます。ATPふき取り検査などの簡便・迅速キットを用いて「環境の清浄度/汚染度を『見える化(数値化)』」することの意義が浮き彫りになってきます。

 

クリーンネス通信の読者にご登録いただけますと、新着記事をメールにてご案内致します。
衛生管理を改めて考える機会に、ぜひご利用ください。