一般衛生管理で重要な「ユーティリティ」の管理

 2024年3月、紅麹を含有するサプリメントを摂取した人が腎臓の病気などを発症する問題が発覚し、現在(2024年7月時点)でも厚生労働省や国の研究機関による原因究明の調査が継続されています。その調査の過程で「培養段階でカビが混入し、プベルル酸などの化合物が作られたと推定される」という報告がありました。

 本件は現在、原因調査中ですが、サプリメントの製造工場に対するGMPの義務付けが議論されるなど、製造環境の衛生管理に対する重要性が改めて強調されています。

 食品施設では、水や空気は当たり前に存在します。そのため、それらの衛生状態について、特に意識していない場合があるかもしれません。今回は「空気と水も、食品の大切な副原料」という視点で、空気や水を介した微生物汚染のリスクについて考えてみましょう。

 製造以外で用いる装置や資材を「ユーティリティ」といいます。ISO 22000などでは、水や空気、照明などの管理を「ユーティリティの管理」として要求事項を設けている場合があります。HACCPを運用する工場では、前提条件プログラム(PP、PRP)、一般衛生管理プログラムの中で「水や空気に関するユーティリティの管理」が重要な場面があるかもしれません。


 

 

空気の清浄度の重要性 ~空気由来の微生物汚染リスク~

 食品工場や医薬品工場において、空気の清浄度管理は、特にカビ対策の観点で重要です。

 空調設備のホコリや結露に微生物が含まれていて、それが食品を汚染して、品質問題(カビの発生、腐敗の発生など)の原因になった事例もあります。空調設備の適切な衛生管理やメンテナンスは、非常に重要な管理項目の一つです。

 環境からの微生物汚染を防ぐことは、製品の初発菌数を低く抑えることにもつながります。そのため、消費期限や賞味期限の延長、ひいては食品ロスの削減、SDGsの取り組みにも寄与します。

①コーデックスの規範

 コーデックスの「食品衛生の一般原則」では、第1章:GHP(適正衛生規範)の「§3:施設―設備および装置の設計」に、以下のような記載があります。

空気の質および換気
 自然換気または機械的換気の適切な手段を、特に以下の目的で提供すべきです。

  • 食品の空気由来の汚染(エアロゾルや結露液滴など)を最小限に抑える。
  • 周囲温度のコントロールに役立つ。
  • 食品の適切さに影響を与える可能性がある臭気をコントロールする。
  • 食品の安全性および適切さを保証するために、湿度を制御する(例えば、微生物の増殖と有毒な代謝物の生成を可能にする乾燥食品の水分の増加を予防するため、など)。

 換気システムは、汚染されたエリアからクリーンなエリアに空気が流れないように設計および構築すべきです。システムは、メンテナンスおよびクリーニングが容易であるべきです。

 換気システムは、空気由来の汚染(エアロゾルや結露液滴など)を最小限に抑えるよう設備し、汚染作業区域から非汚染作業区域に流入しないよう整備する必要があります。外気の取り込み口も重要な管理項目です。昆虫やじん埃、煤煙、臭気などによる汚染が起きないよう、定期的な点検や整備が必要です。空調設備は、清掃や洗浄、フィルタの交換やメンテナンスがしやすい構造や配置にしましょう。

 ちなみに、海外では「プロダクトゾーン」という考え方があります。これは、食品がむき出しになる箇所は、その上空も含めて、衛生管理を徹底するという考え方です。皆さんの工場や厨房では、食品が流れているライン、食品を扱うキッチンの上から、結露水(あるいは異物など)が落ちてくる可能性はないでしょうか?広い視野、俯瞰した視野で製造現場を観察してみましょう。
※ AIB国際検査統合基準:食品接触面用包装資材製造施設のための前提条件と食品安全プログラム 

 また、盲点となりがちな管理項目として、圧縮空気(およびガス類)があります。圧縮空気に関する記述を設けている規格もあります。

 

②日本の規範の例

 HACCP施設では、よく「汚染区域」「清潔区域」「準清潔区域」といった表現がありますが、数値的な管理基準は存在しません。各種食品の衛生規範では、落下細菌数(生菌数)、落下真菌数(カビおよび酵母の生菌数)の基準が設定されているので、それらを参考にしている施設もあります。(一例を表1に示します)。

 作業現場の空気の清浄度は、差圧や気流だけでなく、作業者の動線や着衣、持ち込む物品、各種設備の配置や清掃方法など、さまざまな要素が複合的に影響します。落下菌検査など、環境の清浄度のモニタリング結果を、カビ対策や洗浄方法の改善に活用しましょう。

 ただし、衛生規範はHACCP制度化の施行と同時に廃止されています。衛生規範を参考資料として利用することは可能ですが、できるだけ事業者自身で環境の衛生基準を構築するように努めましょう(日本ではHACCPの運用が義務化されていますが、本質的には自主管理として運用するものです)。

表1 衛生規範における落下菌の基準
空気の清浄度の重要性 衛生規範における落下菌の基準

 

③カビ対策の要点 ~発生予防に集中する~

 空気の管理が不適切な場合、製品でカビ汚染が起きるリスクが高まるでしょう。ここで少し、食品施設のカビ対策について考えてみます。

 一般論として、食品施設で問題となるカビの種類は、食品の種類によってある程度、組み合わせのパターンがあります。例えば、パンであればコウジカビ(アスペルギルス)やアオカビ(ペニシリウム)、お餅であればクロカビ(クラドスポリウム)やコウジカビなどが生えやすい、といったことが知られています。自分たちの施設で潜在的なリスクになり得るカビの種類を把握し、その生態や特徴を理解することは、カビ対策を構じる上で非常に大切です。

 カビの制御では「発生の予防」がカギを握ります。環境中でも食品中でも、いったんカビが発生してしまったら、除去するのは困難になります。ゆえに「育つ前に対策する」が対策の基本です。

 食品施設で問題となるカビは、一般的に「熱に弱い」「乾燥に弱い」「酸素がないと生えない」「冷蔵では生えにくく、冷凍では生えない」といった性質があります。「床・壁・天井や機器を可能な限り乾燥させる」「製品を冷蔵・冷凍する」「製品に脱酸素剤を封入する」などは、非常に有効です。

 カビは、ホコリなどの微粒子と一緒に飛散して、製品に落ちることがあります。そのためフィルタの設置は有効です。エタノールや塩素剤、オゾン、酸性電解水なども有効です。紫外線(UV)も有効ですが、照射した部分にしか効果がない(UVが当たらない、陰になっている部分には作用しない)といった点は留意が必要です。

 

④迅速検査の勧め

 食品や飼料のカビの測定では、国内では主にポテトデキストロース寒天培地(PDA)が用いられています。ISO 21527-1ではジクロラン・ローズベンガル・クロラムフェニコール(DRBC)寒天培地が推奨されています。しかし、いずれも培地の調製に手間がかかり、5日程度の培養時間が必要となる点などが課題となっています。

 そこで有効なのが簡便・迅速培地を用いる代替法です。キッコーマンバイオケミファ株式会社の微生物検査用フィルム培地「Easy Plate」シリーズのラインアップの中では、一般生菌数測定用「Easy Plate AC」や真菌(カビ・酵母)数測定用「Easy Plate YM-R」などが、空気の清浄度確認に利用できるでしょう。ユーティリティの清浄度を確認するという観点であれば、ATPふき取り検査(A3法)も有効です。

真菌(カビ・酵母)数測定用「Easy Plate YM-R」 TPふき取り検査(A3法)の「ルミテスター&ルシパック」  

 図1 真菌(カビ・酵母)数測定用「Easy Plate YM-R」(左)
ATPふき取り検査(A3法)の「ルミテスター&ルシパック」(右)

 

水・氷・蒸気の衛生管理

①水が原因となった食中毒

 水の清浄度の重要性についても、少し考えてみましょう。

 2023年8月、湧き水を使用した食事(流しそうめんなど)でカンピロバクター食中毒が発生し、その患者数は約900人に及びました。水の管理については、水道法で管理項目が定められています。ただし、湧き水を使用する場合など、特段の配慮が必要になるシチュエーションもあり得るでしょう。

 流しそうめんの食中毒が報道された時、「カンピロバクターは鶏肉の食中毒では?」と驚かれた方もいると思います。しかしながら、水や氷とカンピロバクター食中毒は無関係ではありません。1982年(昭和57年)に北海道のスーパーマーケットで、カンピロバクターと病原性大腸菌による大規模な水系食中毒が発生しました。原因を調査した結果、井戸水、および井戸水を使用した食品が原因で、店舗利用者173,274人のうち7,751人が発症する大型事例になりました(後の調査で、塩素滅菌装置の注入管の破損などが確認されました)。

 また、1997年(平成9年)には、保育園の納涼祭参加者の54人がカンピロバクター症を発症しました。後の調査で「飲み物用の氷」と「食材保冷用の氷」を誤り、スコップを介してカンピロバクターに汚染した「保冷用の氷」から「かき氷用の氷」に二次汚染したと推察されています。

 

②海外の基準や規範

 コーデックス委員会の「食品衛生の一般原則」では、GHP「§7:作業のコントロール」に下記の記載があります。

7.3 水
 水、および水から作られた氷と蒸気は、リスクベースのアプローチに基づいて、その意図された目的に適合しているべきです。
 それらは食品の汚染を引き起こしてはなりません。水と氷は、汚染されないような方法で保管および取り扱うべきです。また、食品に接触する蒸気の発生は、それが汚染という結果にならないようにすべきです。食品との接触に使用するのに適していない水(例えば、火災管理用の水、および食品に直接接触しない蒸気に使用される一部の水など)は、食品と接触する水のシステムに接続しないか、または逆流しない別のシステムを備えているべきです。
 再利用のために再循環された水と、再回収された水は、水が食品の安全性と適切さを損なうことがないことを保証するために、必要に応じて処理すべきです。

  WHOでは「食品をより安全にするための5つの鍵マニュアル」において、①清潔に保つ、②生の食品と加熱済み食品とを分ける、③よく加熱する、④安全な温度に保つ、⑤安全な水と原材料を使う、という5項目を挙げています。ここでも使用水について言及しています。

 貯水槽やポンプ類、給水管、温調装置、給水・給湯設備など、広範な視点で適切な管理が求められます。貯水槽などは清掃が容易で、かつ、密閉構造、施錠できる構造にすることが望ましいでしょう。そうした視点は、衛生管理だけでなく、食品防御(食品テロ対策)の観点でも有効です。

 

③迅速検査の勧め

 水の管理では、ユーティリティの定期的な点検に加えて、微生物学的な清浄度確認が必要な場面もあるでしょう。水の自主検査であれば、例えば液体測定用のATP検査の測定試薬「ルシパックA3 Water」、「ルシパック A3液体中微生物検出キット」、微生物検査用フィルム培地「Easy Plate」などを利用する方法が考えられます。ユーティリティの清浄度を確認するという観点であれば、ATPふき取り検査(A3法)も有効です。

 ちなみに、入浴施設や給湯設備では、水を介したレジオネラ症の予防対策として、ATP検査を利用している事例レジオネラ症発生防止のための衛生管理にルミテスターを活用)もあります。

 

  表面ふき取り用の「ルシパック A3 Surface」 液体測定用の「ルシパック A3 Water」 「ルシパックA3液体中微生物検出キット」   
図2 ルシパック各種の測定イメージ
左から、
表面ふき取り用のルシパック A3 Surface」、液体測定用のルシパック A3 WaterルシパックA3液体中微生物検出キット

 微生物検査用フィルム培地「Easy Plate」
図3 微生物検査用フィルム培地「Easy Plate

 

 「食品製造では、水と空気は必須の副原料」という認識が不可欠です。HACCPの土台となる一般衛生管理においても、水や空気に改めて目を向けてみませんか?

 

 

 

 

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