患者数は一昨年の水準まで増加

 厚生労働省は2024年2月21日に開催した薬事・食品衛生審議会(食品衛生分科会食中毒部会)において、2023年の食中毒の発生状況を公表しました。報告によると、事件数1,021件、患者数1万1,803人で、昨年(2022年)と比較して事件数は6.1%増(59件増)、患者数は72.2%増(4,947人増)で、事件数・患者数ともに前年から大幅に増加しました。


図1 昭和56年~令和5年における食中毒の事件数と患者数の年次推移

 2023年(令和5年)はノロウイルス、カンピロバクターともに大幅に増加したことが、全体の事件数・患者数の増加に影響を及ぼしているようです。改めて、手洗いや器具や装置の洗浄など、HACCPの土台となる「一般衛生管理」の充実・強化が求められます。

 患者数が500人以上の事例は2件で、8月に石川県の飲食店で湧水を使用した食事を原因とするカンピロバクター食中毒(喫食者数1,298人、患者数892人)、9月に青森県の弁当製造施設で原因物質不明の食中毒(喫食者数不明、患者数554人)が報告されています。

 死者は4件(4人)が報告されており、その内訳は栃木県の老人ホームでロタウイルスによる事例(原因食品不明)、福岡県の施設給食で病原大腸菌(腸管毒素原性大腸菌O159、腸管凝集性大腸菌O86a)を原因とする事例(原因食品は鶏肉のトマト煮)、和歌山県の仕出し屋でサルモネラ属菌による事例、北海道の家庭でドクツルタケによる植物性自然毒の事例です。

 

 

原因物質別

~患者数の上位はノロウイルス、カンピロバクター、ウエルシュ菌~

 原因物質別に見た事件数の上位はアニサキス432件、カンピロバクター211件、ノロウイルス163件など、患者数の上位はノロウイルス5,502人、カンピロバクター2,089人、ウエルシュ菌1,097人などでした(表1)。

表1 最近5年間の食中毒発生状況(原因物質別)

 カンピロバクターは2021年:154件・764人→2022年:185件・822人→2023年:211件・2,089人と推移しています。また、ノロウイルスについては、2021年:72件・4,733人→2022年:63件・2,175人→2023年:163件・5,502人と推移しています。

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降、ノロウイルス、カンピロバクターによる食中毒は減少傾向を示していました。この背景には、飲食店の利用機会の減少、一般市民の基本的な衛生対策の浸透(手洗いやうがいの励行など)が影響していたと考えられていますが、2023年は増加傾向に転じる結果となりました。

 カンピロバクターは、前年から大幅に増加(26件増、1,267人増)しましたが、患者数の増加に関しては、8月に石川県で発生した飲食店の事例(原因食品は「湧水を使用した食事」、患者数は892人)が大きく影響していると考えられます。

 なお、アニサキスは2013年(平成25年)から食中毒統計での報告が始まり、2018年(平成30年)以降、5年連続で事件数のトップとなっています。ただし、ほとんどが1件あたりの患者数は1人で、直近3年間では2021年:344件・354人→2022年:566件・578人→2023年:432件・441人と推移しており、昨年(2023年)は食中毒の増加傾向がひと段落した印象があります。アニサキスの原因施設は、飲食店137件、家庭59件、販売店55件などで(177件が不明)、飲食店および一般家庭にむけた予防対策の啓発が必要と考えられます。

 


図2 平成8~令和5年 食中毒発生状況(事件数)


図3 平成8~令和5年 食中毒発生状況(患者数)

 

 

原因施設別

~事件数・患者数とも半数は飲食店で発生~

 2023年に報告された食中毒のうち、事件数の47.9%、患者数の55.3%は飲食店で発生していました。また、患者数が100~500人の事例は13件(500人以上の事例は冒頭に記した2件)が報告されており、それらの発生施設を見ると飲食店5件(ノロウイルス4件、サルモネラ属菌1件)、仕出し屋4件(ノロウイルス3件、サルモネラ属菌1件)、製造所2件(いずれもノロウイルス)、旅館1件(ノロウイルス)、給食施設1件(ウエルシュ菌)でした。

 ノロウイルス163件のうち、約7割の113件(3,302人)が飲食店で発生していました。そのほか、旅館で10件(306人)、仕出し屋で14件(897人)、給食関連施設で14件(353人)(老人ホーム6件、学校給食・保育所・事業所・病院が各2件)なども報告されていました。  また、カンピロバクター211件のうち、約7割の150件(1,729人)が飲食店で発生しており、原因食品としては未加熱/加熱不十分な鶏肉料理、鶏や牛のレバー(低温調理を含む)、鶏の刺身やタタキなどが挙がっています。

 依然として、飲食店や給食施設、仕出し屋、旅館など、いわゆる「リテール・フードサービス分野」における食中毒対策は、日本のHACCP関連施策において喫緊の課題であると言えそうです。

 

 

一般衛生管理を「科学的に『見える化』」しよう!

 食中毒の発生原因として、原材料由来の病原菌が残存しているケースもありますが(加熱調理が不十分、保管時の温度管理が不適切など)、一方でノロウイルスやカンピロバクターとノロウイルス、病原大腸菌などの食中毒事例では、ヒトの手指や環境からの二次汚染が原因で発生する場合もあります。

 HACCP制度化では「衛生管理計画」の作成や、必要な記録付けが要求されています。「衛生管理計画」は「HACCP」と「一般衛生管理」で構成されます。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(食品衛生分科会食中毒部会)では、昨年(2023年)発生した幾つかの食中毒事例を振り返って、普段と違うことが起きた際の衛生管理の在り方(例えば、施設の製造能力を超えた受注があった場合の対応など)や、HACCPや一般衛生管理(個人衛生や環境衛生、保管時の温度管理など)の適切な運用および継続的改善の重要性を指摘する声が聞かれました。

 飲食店や仕出し屋、旅館など、いわゆるリテール・フードサービス分野では、特に一般衛生管理が重要な位置付けになります(一例を図4に示します)。ノロウイルス対策では、食材の適切な加熱調理に加えて、適切な手洗い、不顕性感染者を含めた従事者の健康管理、トイレ設備の衛生管理の徹底、嘔吐物の適切な処理などが重要な位置付けになります。カンピロバクター対策でも食材の適切な加熱調理に加えて、使用水の管理、環境での二次汚染対策(適切な洗浄・消毒など)が重要な位置付けとなります。

 

図4 飲食店における食中毒予防のポイント
厚生労働省リーフレット「あなたのお店は大丈夫? 衛生管理を『見える化』しませんか?」(外部サイト)  を基に改稿


 大事なことは、微生物汚染の可能性がある「汚染源」や「汚染経路」を推測し、汚染が起きないような対策を講じることです。そのためには、手洗い効果の確認、器具や装置の洗浄後の清浄度確認など、「衛生管理が適切に行われているか?」を科学的根拠を持って確認できる仕組みを持つことです。すなわち、「衛生管理の『見える化』」ができれば理想的です。

 しかしながら、菌やウイルスは目視では発見することはできません。そこで効果を発揮するのが、ATPふき取り検査簡便・迅速なフィルム培地を用いた、日常的あるいは定期的な衛生点検です。科学的根拠を備えた上で、衛生管理に関する説明責任を果たすことは、食品事業者にとって重要な責務――事業者が果たすべき説明責任の一つです。

●参考 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会(食品衛生分科会食中毒部会)ホームページ(外部サイト)

 

 

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