キッコーマンバイオケミファ株式会社が提案している簡便・迅速な微生物検査用フィルム培地「Easy Plate」シリーズに、2024年2月から新たに「腸内細菌科菌群数測定用『Easy Plate EB』」が加わりました。

 EBは腸内細菌科菌群(Enterobacteriaceae)の略です。日本では衛生指標菌として一般生菌や大腸菌群の検査を行っている関係者が多いので、「腸内細菌科菌群」という名前には、あまり馴染みがないかもしれませんが、世界的には衛生指標菌として広く用いられています。

 

 今回は腸内細菌科菌群の概要について、簡単にご紹介いたします。

 

 

 

日本では生食用の食肉で規格基準があります

 日本の食品衛生法で「腸内細菌科菌群」が登場したのは2011年のことです。当時、焼肉チェーン店で食肉の生食(牛ユッケ)による腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生したことなどをきっかけに、厚生労働省は生食用食肉の製造規格や成分規格などを設けることにしました。その際、微生物基準として「腸内細菌科菌群:陰性」などのルールが設けられました。

 食品衛生法では、以前から大腸菌や大腸菌群などの規格が用いられてきました。それにも関わらず、厚生労働省が「腸内細菌科菌群」に着目した背景には、生食用食肉(牛肉)の危害要因として腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌が懸念されることから、これらを対象に含む検査法であることや、国際標準の検査法(ISO試験法)として実績がある方が望ましいと考えたからです。

 ちなみに、この規格の策定にあたっては、コーデックス委員会が2007 年に策定した「リスク管理のための微生物規格基準に関するガイドライン」の「数的指標」という考え方が用いられています。腸内細菌科菌群の規格は、日本で初めて数的指標を利用して策定されたことでも知られています。 米国・ピルスベリー社が宇宙食の安全性確保としてHACCPの考え方を構築していきます。

 

 

衛生指標菌としての腸内細菌科菌群と大腸菌群

 日本国内では、様々な食品において大腸菌群が衛生指標菌として用いられています。一方で、現在海外では、腸内細菌科菌群(Enterobacteriaceae)あるいは大腸菌(Escherichia coli、以下「E. coli」)が用いられています。なお、Enterobacteriaceaeは「腸内細菌」と訳されることもありますが、「生物の腸内に生息する細菌だけ」と誤解される可能性があることから、食品衛生法ではより正確な訳語として「腸内細菌科菌群」という表記が用いられています。

 さて、日本の食品衛生法では「腸内細菌科菌群」「大腸菌群」「大腸菌」に関する規格が設けられています。よく似た言葉ばかりで混乱しそうですね。ザックリと説明するとのような関係性になります。

 腸内細菌科菌群、大腸菌群、大腸菌(糞便系大腸菌群またはE.coli)、大腸菌(E.coli)の位置づけ
(日本食品微生物学会が作成した図を一部改変)

腸内細菌科菌群

  • 日本の食品衛生法における「腸内細菌科菌群」の規格基準は、先ほど述べた生食用食肉に限定されています。
  • 腸内細菌科菌群の定義は「VRBG(バイオレットレッド胆汁ブドウ糖)寒天培地で、ピンク色、赤色、紫色の集落を形成する、ブドウ糖発酵性のオキシダーゼ陰性菌」となります。Easy Plate EBもこの定義に沿っています。
  • 腸内細菌科菌群の検査では、乳糖非分解性で「大腸菌群」の定義からは外れる赤痢菌やサルモネラ属菌、エルシニアなども検出可能です(下記「大腸菌群」もご参照ください)。
    これらの菌も、食品衛生管理においては重要な腸管系病原菌です。ゆえに、腸内細菌科菌群は、大腸菌群よりもより広い範囲の菌を対象とした衛生指標菌と言えます。

大腸菌群

  • 大腸菌群は、自然界に広く存在するため、「食品が衛生的に取り扱われたか?」を評価するための衛生指標菌として、食品衛生法では様々な食品に用いられています。
  • 食品衛生法では、清涼飲料水や加熱食肉製品(包装後加熱)、魚肉ねり製品など、さまざまな食品で洋生菓子などの衛生規範でも「大腸菌群陰性」などの表記が見られます(注HACCP制度化に伴い、すでに衛生規範は廃止されています)。
  • 大腸菌群は「乳糖を分解して酸とガスを産生する、好気性または通性嫌気性のグラム陰性の桿菌」を指します。E. coliを含むエシェリキア属(Escherichia属)だけではなく、クレブシエラ属(Klebsiella属)、シトロバクター属(Citrobacter属)、エンテロバクター属(Enterobacter)、プロテウス属(Proteus)など、腸内細菌科菌群の一部も含みます。

大腸菌(E. coli)と腸管出血性大腸菌

  • 一般的に、大腸菌はEscherichia coliを指します。
  • 大腸菌はヒトなどの哺乳動物や鳥類の腸管内に存在しており、すべての大腸菌が病原性を有するわけではありません。
  • E.coliの一部に下痢を引き起こす種類のものがあります。それらは「下痢原性大腸菌」と呼ばれ、腸管出血性大腸菌(EHEC)、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管凝集接着性大腸菌(EAggEC)という5種類があります。
  • EHECのうち、血清型O157やO111などは病原性が高く、感染者の報告もあり、時には食中毒による死亡者が発生することもあります。
  • 近年、大腸菌の仲間であるEscherichia albertiiが原因と推定される食中毒や集団感染事例が日本でも報告されており、新しい食中毒菌として注目されつつあります。

大腸菌(食品衛生法ではE. coliと表記、糞便系大腸菌群)

  • 日本の食品衛生法でいうところの「大腸菌」は、大腸菌群のうちEC培地を用いて44.5℃で培養した際に生育可能な菌を指します。つまり、分類学的な大腸菌(E. coli)ではなく、海外でいうところの「糞便系大腸菌群」と呼ばれるもので、クレブシエラ属やシトロバクター属、エンテロバクター属の一部なども含みます。
  • そうした分類学的な違いがあるため、一般的に微生物の名称は斜体で表記されますが、食品衛生法では斜体で表記せずに「E. coli」と表記しています。
  • 食品衛生法では、生食用カキなどで「大腸菌(E. coli)」の規格が設けられています。弁当や惣菜、漬物などの衛生規範でも「大腸菌群陰性」などの表記がみられます(注: HACCP制度化に伴い、すでに衛生規範は廃止されています)。

 

 

まとめ ~自主検査では目的に合った手法を選定しましょう~

  腸内細菌科菌は、EUなど諸外国では、すでに衛生指標菌として一般的に使用されています。今後、海外輸出を検討する食品事業者にとって必須の検査となってくる可能性があります。

 「コンプライアンス(法律への適合性)を考慮した検査」を実施する場合は、法的に定められた項目の検査を、公定法に従って実施しなければなりません。一方で、「自社のHACCPの構築・運用・維持管理をサポートするための自主検査」は、適用する検査法は目的や状況に応じて選ぶことが許容されます(必ずしも食品衛生法で規定される公定法にこだわる必要はありません)

 現時点で、日本で腸内細菌科菌群の検査が必要とされるのは、生食用食肉に限定されています。しかし、海外への輸出を手掛けている事業者、FSSC 22000などの国際規格に取り組んでいる事業者においては、製品や製造環境の微生物検査も、国際標準(グローバルスタンダード)を踏まえた上で取り組む必要があります。急速に国際貿易が進展している昨今の状況を鑑みると、Easy Plateシリーズのような国際認証を取得している代替法(簡便・迅速な検査キット)は、「国際的な顧客信頼の確保」などの観点において優位性が高いと考えられます。

※参照方法:ISO 21528-2 Enterobacteriacae

 

 

腸内細菌科菌群数測定用の製品

Easy Plate EB

 

 培地調製不要で、開封後すぐに使える微生物検査用フィルム培地です。
 腸内細菌科菌群のコロニーは、赤紫~赤色に発色します。

 

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